熊本大学附属図書館 研究者インタビュー

熊本大学学術リポジトリ 研究者インタビューのページです。

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安仁屋勝先生(理学部)

このインタビューは、九州地区の大学図書館が合同で開催する
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熊本大学理学部 物理学科 安仁屋勝先生
熊本大学研究者情報

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Q.先生の専門分野についてお教えください。
 専門分野は物性物理学の理論で、固体イオニクスや構造不規則系の研究を行なっています。
エレクトロニクスという言葉はどこかで聞いたことがあるかと思います。電子が物質中を動き回って色々な現象が起きます。これらの現象、更にはこれらの応用までを含めた分野のことをエレクトロニクスと言います。それに対して、電子ではなく、イオンが固体中をあたかも液体中と同じように動き回る物質群があります。固体中におけるイオンの運動とそれに伴う現象、更にはこれらの現象の応用までを含めた分野の総称を一般的に固体イオニクスと言います。
 構造不規則系とは、原子が結晶のように規則正しく並んでいるのではなく、ランダムな原子配列をもつ物質のことを言います。自然界には原子が規則正しく並んでいない液体やガラス等の物質も数多く存在しますが、これらの物質が示す現象の物理的背景は謎だらけです。また、それらを記述する理論的枠組もまだよくわかっていません。
 これら二つを主なテーマとして研究しています。

Q.現在の研究について教えて下さい。
 いくつかの研究を行なっていますが、固体イオニクスと構造不規則系の二つを組み合わせた超イオン導電ガラスにウェイトを置いた研究をしています。超イオン導電ガラスはガラスの一種ですが、ガラスの中でイオンが動くメカニズムを明らかにする研究や、中距離に渡って原子がどのように並んでいるか、また、ガラスの構造と性質との関係を明らかにする研究等を行なっています。
 液体が凍結された状態をガラスと呼びますが、ガラス化の過程も研究しています。分かりやすくいえば、液体の温度を下げていくと、時間と共に配置を変えながら運動していた原子の動きが鈍くなり、ある温度で固まってガラスになります。すなわち、温度の降下や時間の経過と共に液体中での原子の並び方や連結の仕方が変わっていきます。専門用語では構造緩和と言いますが、それの機構に関する研究をしています。
 イオン導電性ガラスの中には光を当てることによって、通常とはかなり異なる振舞いを示すものもあります。こういった性質と関連した超イオン伝導と非線形光学に関する研究や、アモルファス半導体における光誘起現象の研究も行なっています。他には、超イオン導電体の結合性と物性、イオン導電体の熱電効果、イオン液体、液体半導体、金属ガラス等の基礎物性の研究をしています。

Q.この研究をはじめられたきっかけは何ですか?
 マスターとドクターの頃の経験です。マスターの頃は液体金属の研究を行ない、ドクターに進学してからイオン伝導の研究を始めました。
 私の研究分野は物理学だけではなく、化学や電気化学をはじめ、材料科学、地球科学など、幅広い分野と関係しています。従って、広い学問分野の様子をカバーしておく必要があります。そこが面白いと思います。わからないことや疑問点が次から次へと出てきますので、色々と調べて、他の研究者とは異なるアプローチで疑問点を解決していく楽しみもあります。

Q.今後の研究や抱負について教えて下さい。
 新しく合成された物質で行なった実験や、異なる条件下で行なわれた実験で、新規な現象が観測される場合があります。そこから新しい研究テーマを探してきます。私は理論的な研究を行なっていますので、理論的に仮説を立てて考えていくと、現象のメカニズムが説明できる場合や、こういうことが起こりそうだということが、ある程度予想できる場合があります。その予想を基に新しい研究の芽やテーマを展開させていきたいと思います。
 また、私が関わっている分野は、これからもますます学際的に相互作用しながら発展していくと思っています。固体イオニクスの研究は、最近話題になっている燃料電池や水素エネルギーなどと密接に関連しています。たとえば水素エネルギーの場合、水素を固体中に貯めるだけではなく、水素を取り出さなければいけない。つまり、水素が固体中を動かないといけない、あるいは、水素がイオンになって伝導しなければいけない。このように、私が行なっている研究テーマは、現在求められているエネルギー関連物質の研究とも密接に関係しています。

Q.先生が「熊本大学学術リポジトリを」を知ったきっかけを教えて下さい
 教員全員に流された、広報のPRメールがきっかけです。それから、数年前、評価関係の仕事をしていましたので、それが論文を登録する一つのきっかけになっています。つまり、大学からの情報発信ということに加え、大学教員の本来の仕事の延長線上にある最も簡単な社会貢献活動でもあると思うからです。

Q.先生の論文はこれだけ公開されています。論文を公開してなにか反応がありましたか?
 (データを見ながら)私の論文が色々な国でこれだけ読まれているとは知りませんでした。リポジトリによる公開と関係しているかどうかはわかりませんが、外国から多くの国際会議の案内が届くようになりました。一日に、関係がないものも含めて、数件届きます。あと、最近はオープンアクセスジャーナルがかなり増えて、そこから論文を投稿してほしいという依頼が多く届きます。ここ1~2年で、すごく増えました。タイトルを見て、直ぐゴミ箱に放り込みますが(笑)。

Q.
熊本大学学術リポジトリに限らず、リポジトリに登録されている論文をご利用になったことはありますか。あれば感想やご要望をお聞かせください。

 ほとんど無いですね。というか、どこから論文をダウンロードしたか詳しく見ていないのでわかりません。私の研究に必要な論文は広い分野に分布しています。従って、熊大にない、あるいは購読していない雑誌もあります。それで、検索サイトで著者や論文名を入れると、ネットにたまたま載っている場合もあり、それをダウンロードして使ったりしていますが、それをどこから持ってきているかまでは見ていません。もしかしたら、そこでリポジトリを使っているかもしれません。

Q.
「熊本大学学術リポジトリ」などで論文を無料公開することに対して、どのようなメリットや意義があるとお考えですか?

 研究というのは、研究成果を他の研究者に見てもらって、使ってもらわなければいけません。そうでなければ、研究をしてそれで終わり、ということになってしまいます。研究成果を見てもらい、さらに改良されるのか、応用して使われるのか、知的刺激を与えるのか、色々あると思いますが、とにかく、他の人に見てもらわないと始まらない。ということで、無料で公開されることには意義があると思います。
 私がリポジトリに投稿した論文は日本、フランス、アメリカなどをはじめ、色々な国からアクセスされているようですが、外国雑誌を購読するのは厳しいと思われる国からのアクセスも結構あります。そういった国の研究者が、フリーで論文を見ることができる、長い目で見て、そこには大きな意義があると思います。本来は、学術リポジトリではなく、学会が世界に向けて情報を発信しなければいけないと思います。一部の学会ではそれをやっていますが、今後、こういった流れが加速されることを期待します。

Q.
「熊本大学学術リポジトリ」に掲載された論文をどのような人に読んでもらいたいですか?

 興味のある人全員に読んでもらいたいのですが、物理学という専門分野の論文を一般の方が読まれても意味がわからないかもしれません。従って、実際には研究分野に関連した人が読むことになるかと思います。物理学だけではないかも知れませんが、専門分野の論文を読むのは結構ハードルが高く、色々な概念の理解を積み重ねないと内容が理解できない論文もありますので、それなりのトレーニングを積むことが必要だと思います。当然、一般の方に読んでもらえたら嬉しいですが、ちょっと、いや、かなりハードルが高いと思います。
 あとは、先程出た財政的に厳しい国の研究者や若手の研究者に利用してもらいたいと思います。

Q.
「熊本大学学術リポジトリ」について、ご意見、感想をお願いします。

 登録作業をやっていただけるのなら、どんどん件数を増やしてほしいと思います。我々は原稿をメールに添付するだけですから。あとは、他の大学のリポジトリで、雑誌掲載論文そのものが載っているのを見たことがありますが、リポジトリに登録される論文全てでそういうことが出来ればベストですね。雑誌掲載版の場合、使う側からすると、学術雑誌に掲載された論文そのものを見ることができれば、校正時のミス等も修正されていると考えられるため安心できるからです。他の分野でも同じかと思いますが、特に物理学の分野では、数字や記号がひとつ違うだけで全く違う結果になる場合もありますので、雑誌掲載版と最終原稿では安心感が違います。ちなみに私は校正時の修正も反映させた原稿をリポジトリに登録しています。著作権の関係で難しいかもしれませんが、雑誌掲載版がリポジトリに登録できる、そのようになるといいなと思います。

安仁屋先生、ありがとうございました。

安仁屋先生が「熊本大学学術リポジトリ」に登録されている論文をご覧になりたい方はこちらをご覧ください。
安仁屋勝先生 熊本大学学術リポジトリ 登録論文リスト

インタビュー日
2011年10月13日
インタビュー担当
浜崎(熊本大学教育研究推進部図書館ユニット 雑誌担当)
記録担当
森下(熊本大学教育研究推進部図書館ユニット 電子情報担当)

テーマ:短大・大学 - ジャンル:学校・教育

吉田道雄先生(教育学部附属教育実践総合センター)

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熊本大学 教育学部附属教育実践総合センター 吉田道雄先生
熊本大学研究者情報

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Q.先生の研究内容について教えてください。

一般に知られている専門領域としては、心理学になります。その中でも、特に集団との関わりをとおして人間を理解することが私の研究です。人間は誰でもそうですが、生まれたときから生涯を終えるまで集団との関わりを避けることができません。不幸なケースとして一人きりで亡くなることもありますが、その背景には集団の問題があります。つまり、根本には社会や人間との関わりを抜きにしては人間の行動を理解することはできないのです。
心理学領域の中では、社会心理学に近い領域ですが、専門的には「グループ・ダイナミックス(集団力学)」と呼んでいます。


現在の研究 (2つのテーマ)
I.「リーダーシップ(対人関係)トレーニングの開発と実践」
大学4年生の時に、恩師(三隅二不二(みすみ じゅうじ)先生)の研究室でリーダーシップを測定する尺度ができあがったところでした。それを使うと、望ましい結果をもたらすリーダーとそうでないリーダーが明らかになります。しかし、それだけで終わるのではなく、データを基にして、望ましいリーダーが発揮できるように働きかけることが大事です。そうした改善を目的にして開発されたのが「リーダーシップ・トレーニング」です。私はこうした研究が始まるときから関わりをもつことができたのです。そして、これがとても性にあっていて、1970年代から今まで40年以上も研究と実践を続けているわけです。
ところで、「リーダーシップ・トレーニング」というと少しばかり誤解が生じやすいと感じています。一般的にリーダーシップと聞くと、自分がリーダーではないのでトレーニングなど関係ないと思われがちだからです。そうしたことから、私はあえて「対人関係トレーニング」と呼ぶことも多いのです。
さらに、人と人との関わる「対人関係」は、筋肉と同じように訓練で鍛えることができると考えています。そこで私は「対人関係力」とか「リーダーシップ力」のように「力」を付けて、「みなさんエクササイズしましょう」と呼びかけているのです。
日本語は面白いですね。“自慢じゃないけど…”と言うときは必ず自慢します。そこで自慢じゃないのですが、私が今まで企画し、実践した研修やトレーニングは500回を超えています。大学の授業もそうですが、私はトレーニングもしっかり楽しみながら実施しています。

Ⅱ 「組織の安全に関する研究」
わが国の1970年代は、現在の中国と同じように工業製品を中心にモノを大量に生産しており、「集中豪雨的」とまで言われるような輸出をしていました。そこでは、品質向上や生産性の向上などが話題になっていました。しかし、それに伴ってミスや事故も頻繁に発生するようになりました。そこで、注目されたのがリーダーシップでした。その改善をとおして組織の安全を高めることができるのではないかという期待が生まれました。こうした私の研究対象も組織の安全や事故防止へと拡大していきました。
そのため、私としては、「組織安全学」の確立を提唱し、研究を進めています。今回の原子力発電所のように、とても衝撃的で大きな事故もありますが、小規模の組織におけるちょっとした不祥事なども含めて、組織の安全を研究の対象になっています。


研究をはじめられたきっかけ
父の影響が大きいです。私が高校生の頃、西日本新聞に“九大群像”というシリーズが掲載されていました。その中に三隅先生のリーダーシップ理論の紹介があったのですが、父がそれを切り抜いていました。そして、「こんな研究って面白そうだな」などといいながら私に見せたことがありました。それが集団力学との出会いだったわけです。高校の授業には心理学はありません。そんなこともあって、授業で習わない心理学は面白そうだと考えていたうえに、新聞を父が切り抜きまでしていたことから、こんなことをしたいなあという気持ちになりました。
そのためもあって、大学に入学した当初からしっかり目的意識を持っていました。すでにお話ししたように、当時の三隅研究室ではリーダーシップ測定尺度で緻密なデータを得るためのノウハウが蓄積されていました。その流れの中でリーダーシップ・トレーニングを開発しようという動きが生まれ、私はそんな草創期に巡り合ったのです。
当時は学会もおおらかで、「日本グループ・ダイナミックス学会」には10代の学生で会員になりました。これも自慢ではありませんが…、やはり自慢話になりますね。

【参考】熊大通信, Vol. 21, p. 6-7, 2006 (2006年7月)


今後の抱負
「リーダーシップ・トレーニング」が私のライフワークです。人との関わりが続く限り対人関係は存在しますから、リーダーシップ自体がもともと生涯学習ということになります。そこで、これからも「リーダーシップ・トレーニング」に新しいアイディアや手法を導入していきたいと思っています。どこまで行っても「ベスト」には到達できませんが、それでもベストを追及するところが、われながら面白いなあと思います。また最近は、健康で安全な社会を作ることが大事になってきましたから、それらも包み込みながら研究を進めていきたいと考えています。



Q.「熊本大学学術リポジトリ」について教えてください。

登録いただいたきっかけ
ずいぶんと前のことなので、もうはっきりとは覚えていませんが、たぶん、全学へ宛てたメールによるご紹介が最初でしょう。自分からリポジトリへアクセスしていたという記憶はありません。
その後、個別に連絡をいただいて、論文を投稿したことは確かです。


吉田先生は、110件以上の論文を登録いただいています。論文公開後に、なにか変化がありましたら教えてください。
直接反応があったというよりも、いろいろな方から尺度を使用していいかとか、論文を引用したいといった問い合わせがあります。これは、間違いなく熊大学術リポジトリの効果だと考えています。
もっとも、熊大の学術リポジトリを検索したかどうかを確認はしていませんから、CiNii等を経由してリポジトリの論文へたどり着かれた可能性はあります。その場合は、利用者ご自身に熊大リポジトリを利用したという意識はないかもしれません。


吉田先生ご自身が、リポジトリを利用されることはありますか?
よく利用しています。
CiNiiを経由することもありますが、著者アクセスから論文を探すことが多いですね。私の授業では、最初の時間にリポジトリとCiNiiの紹介をしています。大学院生でも意外と知らないことが多いのですが、学部生のうちから知っておくといいですね。


「熊本大学学術リポジトリ」などで論文を無料公開することに対して、どのようなメリットや意義があるとお考えですか?
単純なことですが、個人でPRできない方々に読んでいただけることが最大のメリットです。
そもそも論文は読んでもらうために書いているのですから、少数の人からしか読まれないというのでは寂しいですよね。大勢の方に読んでもらえるということは、とにかくそれだけで素晴らしいことです。今では、なくてはならないものだと思っています。

吉田先生の論文で、ダウンロード数1位の論文はこちら↓
対人関係トレーニングの開発と実践 : トレーニング・マニュアル作成の試み (3)


「熊本大学学術リポジトリ」に掲載された論文をどのような人に読んでもらいたいですか?
もちろんどなたにも読んでいただきたいですね。あえて言えば、組織や団体の責任者やリーダーシップを発揮することが期待されている方々、そして、組織の安全に関心をお持ちの皆さまに読んでいただきたいと思います。もちろん、現実にもそうなっていると思っています。
お問い合わせなどから推察すると、教育関係者や企業組織のメンバー、さらに看護師の方々にも読んでいただいているようです。



Q.「熊本大学学術リポジトリ」へのご意見、ご感想をお願いします。

論文を登録した順番ではなく、掲載が新しいものから(降順)表示されるといいですね。
最新の論文が一番後ろに表示されてしまうのは、唯一の問題だと思います。もうひとつは…かなり難しい要望になりますが、著者の希望する分類もできればベストですね。(といっても、担当者にとっては大変ですね。)



吉田先生、どうもありがとうございました。

今回の訪問で、先生の最新著作も図書館へ寄贈いただきました。
【Library Lovers】“教員著書”コーナーに置いていますので、ご利用ください。(貸出可)

吉田先生の近著(2011.6)
 「実践的リーダーシップ・トレーニング : 元気で安全な組織づくりの基礎とノウハウ」



インタビュー日
2011年10月11日
インタビュー担当
藤浦(熊本大学教育研究推進部図書館ユニット 電子情報担当)
記録担当
浜崎(熊本大学教育研究推進部図書館ユニット 雑誌担当)

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中内哲先生 (法学部)

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熊本大学 法学部 中内哲先生
熊本大学研究者情報

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Q.先生の研究内容についてお聞かせください。

熊本大学が高校生向けに作成している「がんばれ受験生」というパンフレットの2012(平成24)年版に、私の専攻領域についてメッセージが掲載されているので、これを参考にしていただければ、「ああ、なるほど」みたいなイメージがわくと思います。

 (内容抜粋)
私の専門領域は労働法。基本的に民間企業とそこで働いている人々とのトラブルの解決を考える学問です。以前は強かった労働組合の影響力が弱まり、現在は、労働者個人の権利意識が強まっています。また、公務員試験や社会保険労務士という資格試験で問われる科目でもあるので、労働法は一社会人としての素養といってもいいのかもしれません。かといって「法律」だけを勉強すればいいわけではありません。労働法は、その時代時代の政治・経済・社会状況にかなり敏感に反応するので、法律以外の学問にも興味関心が持てるとさらに理解が深まります。
 詳しくはこちら(熊本大学案内2012)

さらに細かく自分の研究対象というと、「在籍出向関係」と表現できます。例えばAという会社に就職した。A社との関係はつなげておくけど、A社にはポストがないから子会社Bに行ってくれ、と言われることは現実にいくらでもあるわけですよね。A社とはつながっているけど実際働くのはB社。じゃあ、このA・B両社と自分(労働者)の三者関係ってどうなるの?が意外と難しい話なんです。どこかで問題が起こった時に、自分にとっての親会社Aが責任とってくれるの?それともB社?両社共同で面倒見るの?とか考えるとそう簡単には答えが出ないように思うので、研究を深めたいと考えています。ぜひ、熊本大学研究シーズ集もご覧ください。

Q.労働法をご専門にされているきっかけは何ですか?

まず両親の影響が大きいでしょう。両親は1960年安保反対闘争を大学で担った世代です。その当時の労働組合は一つの大きな社会的存在だったはずで、時のニュースや世相が親子で話題になる中で、働くこととか、労働組合とか、それを取り巻く法制度だとかについて自然に対話していたんだと思います。

高校の時には中国史が大好きだったんです。大学で中国史(東洋史)を勉強するか、法律じゃなくて政治学を勉強するか、で悩んだんですね。当時の文学部哲学科出身の担任の先生が、「中国史が好きだって気持ちは趣味で保てばいい。政治がおもしろいっていうんなら、法学部とか政経学部とかへ進学した方が社会に出るときにいいんじゃないか」と言ってくださって、大学の志望学部を法学部にしたんです。でも繰り返しですけど、法律専攻じゃないんです。

何といっても決定的なきっかけは、師匠である浜田冨士郎先生(当時、神戸大学法学部教授。現在、神戸大学名誉教授・弁護士)との出会いです。話すと長くなるのですが、今から思い起こしても不思議なご縁としか言いようがありません。その時からもう22年あまり経ちました。

Q.労働法のおもしろさを具体的に教えてください。

民法という学問領域がもともとの労働法の生みの親なんです。民法だと立場が入れ替わることがあります。物を買う方が物を売る立場になることだってあるし、お金を貸している方が借りる側に回ることもあります。立場の互換性っていうのがありうるんです。けれども労働法では、労働者と使用者の立場が入れ替わる事はあまり想定できないんですね。そうした価値対立がはっきりしているところが、少なくとも自分の性に合ったようです。弱い立場の労働者をどう守るのか、というドラマに感情移入しやすい、という点をおもしろさに挙げることができるかもしれません。

Q.今後の研究の抱負を教えてください。

先ほど話題にしました「在籍出向関係」について、まだ途上なもんですから、それをなんとか完結させたいです。私は博士号を持っていないので、この研究の諸成果をまとめると一つの世界観が提示できるのだとすれば、それを基に博士号を申請できるようにしたいな、というのが研究上の大きな目標です。

Q.熊本大学学術リポジトリを知ったきっかけは何ですか?

図書館の広報を通じて知ったんだと思います。教授会でも「リポジトリというのがあって、登録いただけたらありがたい」というアナウンスが、制度発足からずっとなされていましたし。

Q.中内先生が熊本大学学術リポジトリに登録されている論文のなかで、ダウンロード数がひと際多いものがありますが、その理由についてどう思われますか?

おそらく、ダウンロード数がひと際多い論文をダウンロードあるいはアクセスされた方は一般の方ではないと思います。大学教員(研究者)として労働法を担当している者か、大学院で労働法を専攻していていずれ大学教員になりたいと思っている方が、今抱えている課題との関係でダウンロードしているんじゃないかと思います。

研究者や大学院生が論文を書こうとする時に、自分よりも前に同じようなテーマでどういう論文が発表されているのか、その筆者はどういう意見だったのか、という情報を集めるはずです。そうした過程の一環で中内の論文もダウンロードされていると推測します。

Q.「熊本大学学術リポジトリ」に掲載された論文をどのような人に読んでもらいたいですか?

広く一般の方に見ていただきたいですね。そうは言っても、論文なんで、一般の方が見てもやっぱりわかりにくい。そうすれば結果としてアクセスされる方、ダウンロードまでしてくださる方は、専攻を同じくする研究者か、大学院生になってしまうと思いますが、あらゆる階層の方に見てもらいたいという気持ちで論文を書きリポジトリにアップロードして頂いています。

また、中内の専攻領域である「労働法」の世界では、弁護士の先生方も大変大切な存在なんです。実際に労働事件に直面し手助けしている方々がどう考え何を思うのか、というのも労働法研究者にとって大事なのです。

Q.「熊本大学学術リポジトリ」などで論文を無料公開することに対して、どのようなメリットや意義があるとお考えですか?

まず、検索可能性が大いに拡がります。一応検索に引っ掛かれば論文を見てくださる。そのうえで検索した方にとって意味のある、あるいは批判すべき対象だということになれば、脚注に引用していただける、というのが何よりのメリットです。研究者や大学院生が時間と労力をかけて書いた論文が誰にも見てもらえないという状態は、一番悔しいし残念なことだと思うんですね。その可能性をなるべく小さくして、むしろ論文が多くの方々の目に触れる機会を格段に増加させうることが、私にとってのリポジトリの魅力、メリットです。

中内先生、ありがとうございました。
とてもわかりやすくお話いただき、そして楽しくインタビューさせていただきました。
中内先生は、法律関係の他にも労働安全衛生関係、自動車・船舶関係、無線関係、ダイビング関係、武道等、広い分野で29もの資格を持っていらっしゃいます。担当者とはダイビングの話で盛り上がりました!

中内先生が「熊本大学学術リポジトリ」に登録されている論文をご覧になりたい方はこちらをご覧ください。
中内哲先生 熊本大学学術リポジトリ 登録論文リスト

中内先生のホームページ

インタビュー日
2011年10月6日
インタビュー担当
村上(熊本大学教育研究推進部図書館ユニット 閲覧担当)
記録担当
藤浦(熊本大学教育研究推進部図書館ユニット 電子情報担当)

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宇佐美しおり先生(大学院生命科学研究部 保健学系)

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大学院生命科学研究部 保健学系 宇佐美しおり先生
熊本大学研究者情報

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Q.先生の研究内容について教えてください。

私の専門は、大きく分けると三つあります。一つ目は、精神看護学と呼ばれる領域です。精神障害者の患者さんの症状の再発を防ぐために、精神障害者の患者さん自身がどのような点で日常生活を工夫すると症状が悪化しないようになるのか?といった事を中心に研究しています。二つ目は、リエゾン精神看護と呼ばれている研究です。ガンなどの身体疾患が原因で一時的に精神的に不安定になられる患者さんに対して、どんなふうに支援すると早期に回復して病院に長く入院しないで済むのか?といった領域を研究しています。最後に、私は大学院博士前期課程の高度看護実践コースで専門看護師(Certified Nurse Specialist,CNS)と呼ばれる特別な資格を持っている看護師を育成しているのですが、現在の精神医療の中で専門看護師がどのように活躍できるのか?どのような成果が上がるのか?を研究しています。

Q.研究を始められたきっかけについて教えてください。

日本の精神医療は患者さんのほとんどが病院に入院していて、世界でも精神科の病床数が一番多いじゃないですか?仕事を始めた時、病院に入院している患者さんが自分でセルフケア出来れば、家に帰れるのではないか?と思える患者さんが結構多かったんですね。そういう経験もあって、継続して研究したいと考え始めました。

もう一つは、総合病院の中で身体疾患が原因でうつになってしまう人が多いんですね。でも、一般の病棟にいらっしゃる患者さんがうつになっても割と気付かれにくい。例えば、精神疾患になれば病気という風に分かりますが、一般の内科や外科にいらっしゃる患者さんが身体の病気をきっかけにうつなどに罹られたというのは発見が遅れるんですね。でも、早くに介入すると早くに精神状態が回復される、という事があって、どうやったら早くに介入して精神状態が悪化するのを予防できるのかというのをずっと考えていたんですね。それでリエゾン精神看護という領域の研究にも非常に関心を持つようになりましたね。

Q.今後の研究の方向性や抱負について。

現在、身体疾患が原因で精神的な病気になられた患者さんや入院中の精神障害者の方々に対してマニュアルやプロトコール作りをしていて、このようにやっていくと患者さんは悪くなりませんよ、あるいは地域の中で長く再入院しないで生活できますよ、という事を今後きちんと示していきたいと思っています。
そのプロトコールを作り、現場の看護師さんに活用してもらう事で、そのような問題を持つ患者さんに対しては共通の介入が出来るので、ある患者さんには良いケアが提供されたけど、別の患者さんには提供されなかったというのが少なくなると良いなと考えています。

Q.熊本大学学術リポジトリを知ったきっかけを教えてください。

きっかけとしては、学会誌などで査読の規定に書いてあったからですかね。

Q.宇佐美先生は非常に多くの論文をリポジトリに登録されていますが、リポジトリに登録するようになったきっかけがあれば教えてください。

きっかけとしては、学生さんがいろいろな手段を用いて論文を自分で調べなくなったので、登録するようになりました。昔は、自分の指導教員がどういう研究しているのか調べていたのですが、最近は本当に調べませんね。探せばすぐ答えが出てくると考えている学生が多い状況です。最近の学生さんが論文を探すということに関しては、まだまだだなと感じています。良い論文を引っ張ってこない。でも、リポジトリに登録しておけば、見つけるのも難しくないし自分の指導教員が書いているものくらい読むのではないかと考えました。

また、看護の雑誌は幅が広く、その雑誌を知らない人は見ることが出来ない事が多いんですね。それも登録するきっかけの一つではありますね。リポジトリに登録すると他の大学の人たちにも検索し読んでもらえる機会が多くなるじゃないですか?精神看護の領域はなかなか難しくて、まず雑誌が少ないし、偏った雑誌を読む人が多いんですね。でもリポジトリに登録しておくと、色々とヒットする。それもあってリポジトリに登録するようにしたんですが。

Q.アメリカの方が精神医療では進んでいるというイメージがあるのですが、やっぱり日本は看護について後を追随している状況でしょうか?

遅れているのではないかと思います。一つは教育の背景が大分違うというのが大きいですね。アメリカは合理的な国なので、看護師の役割がとても拡大してきている。日本の場合、同じようなことをしようと思ったら何が出来るものか?みたいな話になるので、大分背景が違いますね。アメリカの事例は看護師の裁量範囲を拡大したりとかしている点では参考にはなるんですが、文化的な背景が全然違うので直接それを用いることはないですね。用いてもあまりうまくいかないので。

Q.宇佐美先生が熊本大学学術リポジトリに登録されている論文のなかで、ダウンロード数がひと際多いものがありますが、その理由についてどう思われますか?

多分、ダウンロード数が多い論文に関しては、身体疾患で入院されている患者さんたちが精神的に不安定になられた時に看護する人をリエゾン精神看護専門看護師と言っているのですが、そのリエゾン領域の関心が非常に高くなっていて、医師たちの関心も高くなっています。総合病院に勤務する精神科医も増えてきていて、その人たちがリエゾンコンサルテーションチームという事に非常に関心を持って、診療報酬にそれを反映させたいという動きをしていらっしゃるんです。来年4月に診療報酬の大きな改定があるので、そこに向けて働きかけをしていらっしゃるようで、精神看護専門看護師にもお声がかかり、一緒に診療報酬改定にむけて「リエゾンチーム」加算をとれるようにしよう、と話しをすすめて下さいました。この動きに伴ってデータを欲しいという方が多いのではないでしょうか。よく尋ねられます。

Q.「熊本大学学術リポジトリ」に掲載された論文をどのような人に読んでもらいたいですか?

やっぱり、まずは学生ですね。まずは読んで勉強してください、って感じですかね。学部を卒業して看護師となり、また大学院に戻って勉強したいという場合は、今こういう風に精神科は発展していますよ、という流れを理解してもらえたり、関心を持ってもらえれば良いなと思いますね。

Q.熊本大学学術リポジトリについてご意見、ご感想をお願いします。

この間も話題に挙がったんですが、リポジトリに登録すると二重投稿だという話も非常に出てきています。以前まではリポジトリは二重投稿という見方はされていなかったんですが、最近は二重投稿ではないか?という節も出てきているので、考え方や示唆が分かるページがあればいいなと感じています。
あとは「リポジトリで論文がでますよ」というPRを積極的にもっとしてもいいのでは?と思う事もありますね。あと、リポジトリに登録されている先生の数が、少なくないですか?もっと増やさないといけないと思います。だって学会誌に出した後、登録できるじゃないですか?論文を見ていると助教の先生も多いので、大学としてはもう少し講師以上の先生方も登録数を増やしても良いと思います。

宇佐美先生、ありがとうございました。

宇佐美しおり先生が「熊本大学学術リポジトリ」に登録されている論文をご覧になりたい方はこちらをご覧ください。
宇佐美しおり先生 熊本大学学術リポジトリ 登録論文リスト

インタビュー日
2011年10月3日
インタビュー担当
柿原(熊本大学教育研究推進部図書館ユニット 医学系分館担当)
記録担当
村上(熊本大学教育研究推進部図書館ユニット 閲覧担当)

テーマ:短大・大学 - ジャンル:学校・教育

犬童康弘先生 (医学部附属病院 小児科)

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熊本大学医学部附属病院 小児科 犬童康弘先生
熊本大学研究者情報

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Q.先生の研究内容について教えてください。

先天性無痛無汗症(Congenital Insensitivity to Pain with Anhidrosis: 以下CIPA)と呼ばれる遺伝性疾患の研究を行っています。生まれつき痛みの感覚がなく、汗をかくことができないという稀な疾患です。私たちは生後1ヶ月のCIPA患児との出会いをきっかけにして研究を開始して、その原因をはじめて明らかにしました。(この研究の経過については、熊大学術リポジトリに掲載した、以下の論文で紹介しています)

犬童康弘 / 先天性無痛無汗症 : わが国の小児科医・研究者によって新たに提唱・発見された疾患, 疾患概念, 原因の究明された疾患17, 小児内科, 40(10), p1701-1707, 2008

実は身近な遺伝性疾患
CIPAの患者数は国内では100名前後とされています。遺伝子の機能喪失を原因とする非常に稀な疾患です。患者の父親と母親はこの疾患の原因となる変異遺伝子を1個ずつ持っていますが、発症せず病気としては現れない遺伝的保因者です。例えば100万人に1人が発症すると言われると、そんなに稀なら自分には関係ないと思ってしまうかもしれませんが、500人に1人は遺伝的保因者なのです。2~3万個ある遺伝子の中で、誰もが必ず10個くらいは遺伝病に関連する変異遺伝子を持っていると推定されています。病気の症状が出ないのは保因者の状態にあるからです。みんな何も異常がないと思っていても本当はそういったものを持っているし、それが普通なのです。
社会一般の人たちには、まだ遺伝性疾患についての誤解もあるようです。ヒトの遺伝についての理解が深まり、このようなことが、広く一般に知られるようになると、遺伝性疾患についての考え方も変わるのではないかと思います。

「痛みを伝える神経」と「交感神経」のはたらきと内感覚の概念
研究を進めていく中で、CIPAの子どもたちには「痛みを伝える神経」と自律神経の「交感神経」がないことが分かりました。触った感じは分かるが、熱さや痛みが分からないのです。彼らを診ることによって「痛みを伝える神経」や「交感神経」が、健常な人たちでどういう働きをしているかが分かってきました。

バラの棘で皮膚をひっかくと周りが赤くなり腫れて痛くなる炎症反応がおこります。私たちは血液とか免疫によって炎症反応が起こると教科書的には学んできました。しかし、CIPAの子どもたちでは、私たちのように赤くなる反応や痛みが起こらないのです。このことから、炎症反応には「痛みを伝える神経」が関係していることが分かってきました。
「痛みを伝える神経」は枝分かれしていて、痛みの刺激があると1つは脊髄を通じて脳に伝わっていきます。それとは違って、もう1つ血管を拡張させたりするものが分泌され赤くなる反応を起こす軸索反射の経路があることが分かってきました。炎症反応に神経が関与していることは古くから知られていましたが、「痛みを伝える神経」が大事だということがCIPAの子どもたちから分かってきたのです。

神経は普通、視覚なら光に対する反応といったように特異的に働きます。しかし、「痛みを伝える神経」は痛みだけでなく、痛みとして意識されないかゆみや炎症に関わる生体物質、体の中の変化、暑さや涼しさなど様々な刺激にも反応するので「poly(多い)」「modal(様式)」といった意味から「ポリモーダル受容器(polymodal receptor)」とよばれることもあります。
視覚や触覚など外から受ける刺激を感じることを外感覚と言います。温覚・痛覚といったものは単にそれが強くなったものと考えられてきましたが、実際には伝える神経が違っているのです。最近、内感覚(interoception)という概念が出てきて、「ポリモーダル受容器」が体のあらゆるところに網の目状にあり、自分の体の中をモニターしているという概念が出てきました。熱いものに手を近付けると熱さを感じるので、外の感覚と同じと思われていましたが、実際には自分の体の中の変化を感知しているのです。例えば、暑いと感じたら「ポリモーダル受容器」がシグナルを脳に送り、脳は血管を拡張させて熱を放散し汗をかいて体温を下げようとします。この発汗作用は交感神経により調節されています。寒い時に血管を収縮させて熱が逃げないようにし、鳥肌が立つのも交感神経による反応です。外の温度が変化しても体の温度を一定に保つホメオスタシス(恒常性)に「ポリモーダル受容器」による内感覚と交感神経が役立っているのです。
CIPAの子どもたちはこの「ポリモーダル受容器」と「交感神経」が欠損しているので、体温調節ができません。そのため夏は高体温になり冬は低体温になってしまいます。

「心と身体」の関係と情動
また、「痛み」は「情動」とも密接に関連しています。情動には「身の毛もよだつ」「胸が躍る」「手に汗を握る」といった表現があるように、胸がドキドキしたり手のひらが汗ばむといった交感神経の活動による身体的な反応が必ず起こります。情動的な反応がおこるためには「痛みを伝える神経」と「交感神経」がうまく働かないといけません。例えば、猫が犬に出会った時、猫は毛を逆立ててうなり声をあげしっぽを立てます。よく見れば瞳孔が開き肉球が少し濡れて脈拍も上がっているはずです。人間も怒ったりけんかをするときにはそうなります。これらは自分の体を守るための反応です。痛みもそれと同じです。程度の大きい小さいはありますが、私たちはそういったことを毎日感じながら成長して学習していきます。1回怖い目にあったら、2回目からは学習して避けるようになります。しかし、CIPAの子どもたちは痛みを感じて学習することができないため、危険な行動によって骨折を繰り返したり、加減が分からないまま飛んだり跳ねたりすることで足や膝の関節に過度の負荷がかかり関節が破壊されて変形し、歩行機能に影響が出ることもあります。痛みはつらいものですが、痛みの無い生活は危険なことです。
「脳と身体は切り離せない」「心と身体は切り離せない」と漠然と言われていますが、「痛みを伝える神経」と「交感神経」が脳と体をつなぐ重要な神経だということが分かってきたのです。

現在、CIPAの研究を通じて学んだことをもとに、臨床医学と脳神経科学の両方の視点から、ヒトにおける「脳と身体」の関係について、別の言い方をすると「心と身体」の関係について明らかにすることを目標に研究を続けています。


Q.熊本大学学術リポジトリを知ったきっかけを教えてください。

初めは図書館からのメールや各教室へのアナウンスで知りました。私がリポジトリに寄稿した理由はいくつかあります。

研究内容の一般の人たちへの公開
私たちがしているような遺伝子の研究はお金がかかるので、科学研究費などを取得していますがその研究成果として投稿した論文は限られた研究者しかアクセスできません。リポジトリは誰でもアクセスできるとのことでしたので、公的な研究機関に属するものとして広く一般の方に知ってもらういい機会になると思いました。

発展途上国の研究者にもアクセスが可能
私の共同研究者には、バングラデシュやカンボジアからの大学院生もいました。彼らの名前が載っている論文をリポジトリに入れておけば、帰国した後も自国からインターネットでアクセスして自分の実績として紹介できるのではないかという思いもありました。
発展途上国でも、近年自国で出生前診断などの遺伝子検査ができるようになってきました。その時にどの遺伝子を調べればいいか具体的な方法について知りたいという問い合わせがありました。雑誌のサイトからPDFをダウンロードして送ることはできなかったので、遺伝子解析の方法論についてリポジトリに寄稿した論文を紹介したこともあります。

例:Congenital Insensitivity to Pain with Anhidrosis: Novel Mutations in the TRKA (NTRK1) Gene Encoding A High Affinity Receptor for Nerve Growth Factor, American Journal of Human Genetics, 64(6), 1570-1579, 1999

電子化される以前の論文
電子化以前に出版された論文は、雑誌のサイトでもアブストラクトしか掲載されていなかったり契約外になっていたりしますよね。例えば、私たちが先天性無痛無汗症について最初に発表した論文は、掲載誌が電子化される以前のものです。こちらを引用して欲しいのに、電子化後に出した論文の方が見つけやすいからか引用が多くなっていました。リポジトリに入れておけば古い論文でも形が見えるようになるので、こちらを引用してもらえるのではという思いもありました。

例:Mutations in the TRKA/NGF receptor gene in patients with congenital insensitivity to pain with anhidrosis, Nature Genetics, 13(4), 485-488, 1996

著作権の問題
電子化以前は海外の研究者などから別刷り請求のハガキがくると、別刷りを郵送していましたが、最近はPDFファイルを送って欲しいと連絡がきます。しかし、雑誌によっては著作権の問題でそれができるとは限りません。このような場合でも、出版後一定の期間が経過したらリポジトリへの掲載が許可されることもあるので、誰にでも読んでもらえるようになります。例えば、「Expert Review of Neurotherapeutics」という雑誌は出版後1年が経過すればリポジトリに掲載することができます。

例:Nerve growth factor, pain, itch and inflammation: lessons from congenital insensitivity to pain with anhidrosis, Expert Review of Neurotherapeutics, 10(11), 1707-1724, 2010

出版社版はこちら
熊大リポジトリ版はこちら (2012.2.22追記)


Q.熊本大学学術リポジトリについてご意見、ご感想をお願いします。

附属図書館のリポジトリは、大学からの情報発信の手段として、また科学研究費など公的な資金の援助を受けて行われた研究成果を社会に広く公開して理解してもらう手段として、これまでに以上に重要な役割を演じることになると思います。そのためには、リポジトリの充実が必要不可欠です。今後、多くの研究者から賛同が得られることを期待しています。

犬童先生、ありがとうございました。

犬童康弘先生が「熊本大学学術リポジトリ」に登録されている論文をご覧になりたい方はこちらをご覧ください。
犬童康弘先生 熊本大学学術リポジトリ 登録論文リスト

インタビュー日
2011年9月26日
インタビュー担当
廣田(熊本大学教育研究推進部図書館ユニット 利用相談担当)
記録担当
柿原(熊本大学教育研究推進部図書館ユニット 医学系分館担当)

テーマ:短大・大学 - ジャンル:学校・教育

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